火曜会

火曜会は、言葉が帯びる身体性を押し隠すのではなく、それを多焦点的に押し広げることこそが研究行為ではないか考えています。また研究分野の境界は、分野の前提を再度議論する中で、連結器になるとも考えています。

火曜会(第40期)の予定

火曜会第40期はすでに終了しました。

火曜会第 40 期
(2023 年秋)
同志社大学烏丸キャンパス志高館
SK214
15 時より
2023 年 10 月 4 日
冨山一郎
Ⅰ場
 さまざまな議論が、倫理的な命題に落ち着かないために、この数年場の論理ということをずっと考えている。夏もそんなことを考えながら、結構好き勝手に本を読んで過ごした。そうした本の中には、レベッカ・ソルニットの『私のいない部屋』もある。同書の原題はRecollections of My Non-Existence だから、re-collection という時制が訳語では見えなくなっているが、おもしろかった。「あなたはどういう立場なのか? どこに帰属しているのか?」。ソルニットはこういったよくある質問について、それが「あなたはよって立つ場所があるとおもっているのか?」という意味として響くことを指摘し、「今自分の占めている空間にいる権利があるのだ、と思えるとはどういうことなのか」と問う。
 ポジショナリティという言葉が、頻繁に使われるようになって久しい。またインターセクショナリティも単純化すれば、立場の複合性ということになり、依然として前提としての立場性は設定されている。立場や帰属がそこにいてもいいという根拠だとしたら、このポジショナリティを聞く質問は、ソルニットがいうように、そこにいてもいいととでも思っているのかという恫喝になる。
 先日札幌で開催された教育史学会で同じパネルだった新井かおりさんは、『アイヌわが人生』の著者であり、北海道の二風谷ダム建設にかかわる訴訟をになった祖父の貝沢正が、人類学者の河野本道から、「アイヌであることを証明してみろ」といわれたことを紹介していた。それは『アイヌ史』編纂事業の中での出来事だが、新井さんは貝沢が編集会議のたびに河野に「蚕食」され、疲労していったと書いている。この編纂事業は結局うまくいかず、貝沢さんはその数年後亡くなった。この河野の発言はやはり、そこにいていいとでも思っているのかという恫喝だと思う。(河野については、マーク・ウィンチェスターさんの「分類学者:河野本道のアイヌ民族否定論(上)」『神田外大日本研究所紀要』(2013.3)を参照してください。)
 もしある場所にいることが、立場や帰属を前提にするなら、ソルニットは居場所を失い、さまよくことになる。『私のいない部屋』からは、実際ソルニットがさまよっていたことがよくわかる。そして同時に、さまよい続けながら人と出会い、だからこそ文章を書き続けることができたのだろう。そのことは『私のいない部屋』に限らずソルニットの本の謝辞を見れば了解できる。謝辞には膨大な、しかもきわめて多様な人の名前が登場するが、この人の集まりは、所属や立場でくくることはできない。
 そんなことを考えならが、竹村和子さんが『愛について』で「とりあえずの連帯」ということをいっていたのを思い出した。それはジュディス・バトラーが『ジェンダートラブル』で述べた emergent coalition のことだ。竹村さんはこの「とりあえずの連帯」の要点を、「アイデンティティの中断」だという。「それは集合と同時に離散を、親密さと同時に困惑や敵意を、生産する」のだ。だがこうしたある種の混乱を処理するために、「共通理念や共通心情」あるいはそれを組織化する理論が登場するが、竹村さんはこうした動きには「頼ることはできない」という。そしてこの中断を確保するということを、個人の姿勢や倫理的正しさではなく(倫理的自由とも竹村さんはいうが)、連帯の場にすえる。そして竹村さんが場というとき、その言葉もバトラーから引かれており、そこには set という言葉が対応していた。Set を竹村さんは場と訳したのだ。それは舞台のことなのだろうか。

Ⅱ進め方について(以下略)

Ⅴ予定
予定の題目は仮です。それぞれが改めてメーリングリストに題目を流してください。
10/11 映画「セレナ(SELENA)」(1997 年)を見る
案内 李真煕
10/18 中間報告会のため休み

10/25 動物を喰う私
報告 内藤あゆき
11/1 MFE 第 4 号を読む@火曜会
案内 西川和樹
11/8 『Arna’s children』(2004 年)を見る
案内 李啓三

11/15 レベッカ・ソルニット『私のいない部屋』を読む
案内 冨山一郎

11/22 沖縄社会の創造力と法の支配の現在地
報告 島袋琉
11/29 神社から見る沖縄近代史
報告 陳志剛
12/6 江馬修『羊の怒る時』を読む
案内 廣野量子
12/13 暴力、その後
報告 冨山一郎
12/20 伊藤野枝とロリィタについて
報告 山口沙妃
1/10 ダラ・コストの雑誌『家の労働者』を読む
案内 姜喜代

1/17 戦後北海道の炭鉱と女性
報告 姜文姫

1/24 藤田省三におけるナルシシズムについて
報告 李啓三
この後打ち上げです!