大阪・東京若手研究者交流会「他者と想像力—〈日本〉を揺さぶる文化研究のために—」
国際日本学研究会 大阪・東京若手研究者交流会
他者と想像力
—〈日本〉を揺さぶる文化研究のために—
日時:11月19日(土) 10:00~17:00
場所:早稲田大学早稲田キャンパス120‐4号館4‐406会議室
会場アクセス参考:http://www.waseda.jp/tlo/jpn/contact/index.html
※4階へは階段しかありませんのでご注意ください。
※参加希望の方は、以下のメールアドレスにお名前とご所属を明記の上、ご一報ください。
お申込み・お問合せ先 : iajcs_e〔a〕yahoo.co.jp 〔a〕を@に代えてお送りください。
だから、もし日本的空気を感じたければ、なにも旅行者然とTokio(東京)まで出かけるには及ばない。逆に、ここにいたままで誰か日本の画家の作品に沈潜するがいい……
――オスカー・ワイルド
本企画は、大阪と東京の若手研究者による、問題意識や研究成果の共有を目的とした交流会である。午前の部「他者としての〈怪異〉」と午後の部「多次元の〈日本〉」を踏まえ、総合討議を行う。 「他者と想像力」とは、他者によって触発される想像力、あるいは、想像力によって規定させる他者という複雑な相互作用の局面をとらえ、議論するための問題設定である。そのようなテーマを共有しつつ、発表者たちは、近現代の〈日本〉という場(必ずしもこの列島にとどまらない)で展開した文化的な諸事象――近代文学、大衆文化、民俗文化、サブカルチャー、近代思想――をそれぞれの方法で論じていくだろう。 副題に用いた「揺さぶる」という語には、両義的な意味を込めた。まず、〈日本〉の自明性を問い、動揺させるということである。それは他者の排除や抑圧を作動させるものであるがゆえに、批判的に検討すべきものでありつづける。しかし、そのような批判的な実践は、逆に〈日本〉を再定義し、より強固なものにしてしまう危険性もはらんでいるのではないか。揺さぶることが、さながら折口信夫のいうタマフリのように作用し、対象自体を活性化させてしまうということである。 今日、日本社会は複雑化し、内実と境界、そのリアリティが絶えず問われる状況にある。しかし同時に、経済や社会の問題、東アジア諸国をはじめとする国際関係においても、閉塞的な状態が続き、近年では〈日本〉を拠り所とすべき確固たるものとして求める欲望が顕著にみられるようになった。そんな状況下で、私たちは〈日本〉はいかに論じることができるのだろうか。総合討議では発表者のみならず、参加者とともに議論したいと考えている。(文責:黛) |
10:00~12:30 午前の部 他者としての〈怪異〉
午前の部では、怪異怪談研究会に所属する三名の若手研究者が、近代日本における「他者としての〈怪異〉」を共通のテーマとして論じる。近代に〈他者〉概念が生成してゆくなかで、「怪異」は秩序を紊乱する「人ならざるもの」として括り出され、抑圧される歴史をたどった。だがそのことは逆説的に、〈怪異〉が出来することで近代的な規範が脅かされる状況があったことをも照射する。即ち積極的に抑圧せねばならぬ危険な〈外部〉として近代における〈怪異〉はあったのだ。
本企画では、作家・泉鏡花の芝居小屋を描いた小説における〈主体〉と〈他者〉の境界の侵犯、大衆文化におけるイタコや恐山の表象にみる〈他者〉へのまなざし、そして近代「異類婚姻譚」を素材とした「配偶者の他者性」についての報告を通じ、この問題に迫る。特に虚構テクストの検討に焦点を当てることによって、そこに内在する様々な主体の欲望を読み解き、近代日本における〈怪異〉がいかなる〈他者〉としてあったのかを論じたい。
鈴木 彩
泉鏡花作品における芝居小屋—虚構と現実の接点
プロフィール:慶應義塾大学文学研究科博士後期課程。専攻は日本近代文学。小説が演劇化され、広まってゆく過程や、小説に描かれる演劇のあり方などをテーマとして、日本近代における小説と演劇の関係を考察している。主な論文に「新派劇〈婦系図〉と原作テクスト―泉鏡花「湯島の境内」を視座として―」(『日本近代文学』90集)など。 |
大道 晴香
異文化への欲望—1960年代の恐山をめぐって
プロフィール:國學院大學大学院大学院特別研究員。専門は宗教学。論文に「霊場恐山の近代化―大正期の「観光化」をめぐって―」(『文化/批評』第7号、2016年)、「マス・メディアのまなざしと自己表象の再編―「自文化」としての〈恐山信仰〉をめぐって―」(『國學院雑誌』第116巻第11号、2015年)、「大衆文化としての〈イタコ〉―一九七〇~八〇年代の「オカルト」ブームをめぐって―」(『宗教研究』第376号、2013年)など。 |
乾 英治郎
「異類婚譚」の近代──〈怪異〉と暮らす
プロフィール:立教大学兼任講師。専門は日本近代文学。怪異怪談研究会所属。研究分野は、近代における怪異表象のほか、探偵小説、忍者小説、変態心理、仮面ライダーなど。最新の論文は「芥川龍之介「報恩記」論─〈探偵小説〉と〈忍者小説〉を架橋する」(『立教日本学研究所年報』14・15合併号)、「船幽霊の声/幽霊船の沈黙─〈海異〉の近代史」(一柳廣孝監修・飯倉義之編『怪異の時空(2)怪異を魅せる』(青弓社、10月刊行予定)。 |
13:30~15:25 午後の部 多次元の〈日本〉
午後の部では、大阪大学日本学研究室の3名が、異なる領域に通底する問題を〈日本〉を他者と設定することで浮かび上がらせ、横断的に議論することを目指す。
「多次元の〈日本〉」とは、表象世界や生活世界といった様々なレベルにおいて立ち現れてくる〈日本〉なるものをとらえるための視座である。ここでいう〈日本〉とは、地理的・歴史的・政治的な諸状況と絡み合いながら、しかしそこにとどまらない、過剰な想像力を触発してしまうなにものかとして考えている。近代日本は、国民国家の制度を積極的に受け入れ、「標準化」することで国際社会に参入し、それまでの生活世界を再編して新たな伝統を創出しながら、他者との「差異化」をはかってきた。それは、文学や思想、制度、生活といった多次元的に展開した運動だったといえる。さらに標準化を前提にした差異化の過程は、近代日本が植民地帝国として東アジアに勢力を拡大していくなかで、その支配下や影響下に入った様々な個人と集団を同化・周辺化・排除していく動きと連動していたのは言うまでもない。
私たちは、多次元にわたる〈日本〉の問題を、他者をキーワードとしながら検討していく。生活世界のコミュニケーションにおける他者の問題。また、サブカルチャーという表象世界が中国で受容される過程で、いかに他者としての〈日本〉を想像させ、相対化させるのかという問題。近代化へ向かおうとするラテンアメリカにおいて、時には近代化の成功例として、時にはコスモポリタニズムを保証するエキゾチックな他者として、登場する〈日本〉の問題。これらの問題から、〈日本〉というものを揺さぶる可能性を共に考えてみたい。
黛 友明
フィールドにおける〈他者〉―民俗芸能の歴史と実践
プロフィール:大阪大学大学院文学研究科博士後期課程。専攻は民俗学。漠たる日常生活を民俗芸能から捉えるための調査研究を行ないながら、近代日本において「民俗」が発見されていくプロセスを考えるために柳田国男論に取り組んでいる。主な論文に、「芸能・共同体・関係性:伊勢大神楽の事例を通じて」(『大阪大学日本学報』第33号)など。 |
湯 天軼(とう・てんいつ、TANG TIANYI)
開かれる「他者」(ニジゲン)を求めて—中国における日本サブカルチャー受容をめぐる報告
プロフィール:大阪大学大学院文学研究科博士後期課程、日本学術振興会特別研究員。専攻は文化人類学、現象学。現在中国における日本サブカルチャー受容の現地調査、またその諸形態の形成を現象学的に、身体論的に考察することを試みている。主な論文には、「そのたびごとに、始まりの地平――中国における日本サブカルチャー受容の現象学的研究序説」(『文化/批評』第5号);「地平/生活/アポリア : 中国における日本サブカルチャー翻訳をめぐって」(『大阪大学日本学報』第34号)など。 |
ファクンド・ガラシーノ(Facundo GARASINO)
西洋文明を振るう東洋の優雅な帝国—ラテンアメリカの近代化と日本をめぐる想像力
プロフィール:大阪大学大学院文学研究科博士後期課程、専攻は思想史・日本研究。近代における他者表象や日本表象、ラテンアメリにおけるオリエンタリズムを研究している。主要な論文として、「ラテンアメリカから帝国を宣伝する―ひとりのアルゼンチン日本移民が語る西洋、オリエントと新世界」(『大阪大学日本学報』35号)などがある。 |
総合討議 15:25~17:00
コメント:茂木 謙之介
プロフィール:東京大学大学院総合文化研究科博士課程、国立小山工業高等専門学校非常勤講師。専門は表象文化論、近代日本文化史。地域社会における皇族表象を導きとした戦前戦中戦後の天皇(制)研究、雑誌『幻想文学』の検討を通した〈幻想文学〉ジャンルの言説史研究などを遂行中。主要論文「東京・怪異・モノガタリ ―泉鏡花「二三羽―十二三羽」を中心に―」(『日本文学』63巻9号)、「弘前の秩父宮 ―戦中期地域社会における皇族イメージの形成と展開」(『歴史評論』第762号)など。 |
主催:国際日本学研究会
後援:怪異怪談研究会
関連サイト:いしばし評論Facebook https://www.facebook.com/hyoron.ishibashi