【紙面紹介】辺野古新基地建設をめぐる新聞報道
名護市辺野古における新基地建設に関わる手続きをめぐって、防衛局側と名護市側で激しい対立が続いている。琉球新報及び沖縄タイムスの地元二紙が経緯を詳細に追っているので、主にそれらの報道をもとにこれまでの経緯を時系列的にまとめておく。
辺野古漁港使用許可申請をめぐる名護市と防衛局との一連のやりとり
2014年4月11日、米軍普天間飛行場の名護市辺野古移設のための工事に先だって、辺野古漁港の使用許可等6項目を盛り込んだ申請書・協議書が沖縄防衛局から名護市に対して提出された。提出に先立つ事前協議の申し入れはなく、また防衛局側が名護市に対して設定した回答期限5月12日の法的根拠についても不明であったため、名護市は同申請書・協議書上の不備の指摘と併せて追加説明を求める照会文書を4月22日付で防衛局に提出していた(琉球新報4月23日)。
4月28日付の沖縄防衛局の回答としては、期限は任意に設定したものであり、法的に根拠があるわけではないとした上で、期限内に名護市の回答がられない場合の対応に関しては、名護市との協議が整わなかったものとして処理するとしている(琉球新報4月28日)。
一方の名護市は、防衛局の提出した申請書・協議書の様式上の問題として、辺野古漁港の占有期間を事業完了までと記載されていることを指摘し、占有期間を最大でも3年とする同市の条例を事実上無視するものであるとしてこれを取り下げ、5月7日付の文書で再提出を求めた(琉球新報5月9日・沖縄タイムス5月9日)。
5月9日、防衛局は再度申請書・協議書を提出し、名護市側から指摘された不備に関して法令上の問題がないことを強調した上で、任意に設定していた名護市側の回答期限を撤回しないことを改めて表明した(琉球新報5月10日)。
防衛局は、回答期限として設定した12日までに名護市からの回答が得られない場合の対応について、当初は協議が整わなかったものとして処理すると述べるにとどめ、必ずしもその内実を明らかにしてこなかったが、5月13日、「市の許可は必要ない」との認識を示した。すなわち、漁業法の定める事業関係者間の協議はその結果の如何によって法的な拘束力を持つものではないとする解釈のもと、同法を根拠とする名護市長の許認可権を否定した上で、協議自体は一連の申請書・協議書のやり取りにおいて済んだものとして手続きを進めるという方針が表明されたことになる(沖縄タイムス5月13日)。
これに対して、市長の許認可権を主張する名護市においても、その根拠となる法令は漁港法であるとしているが、新基地建設に対して協議に法的拘束力を認める点や現段階で協議に入っていないとする認識において、防衛局と真っ向から対立している。そもそも、漁港法における事業関係者間の協議に関する定義・位置づけ自体が曖昧であり、解釈の余地を残すものであるが、防衛局による解釈は協議の意味自体を形骸化してしまうものであると言える。
なお、名護市長の許認可権の根拠となりうる新基地建設関連法令は、漁港法以外にも工事資材搬入に使用する道路の占有許可権を定めた道路法や、キャンプ・シュワブ内の名護市有地からの土砂採取に関わる市長の管理権限を定めた地方自治法などが挙げられる。これら個々の法令にもとづく名護市長の許認可権の有無については国会でも今年1月に衆議院議員照屋寛徳によって質疑がなされているが、これに対する2月7日付の政府答弁は回答不可能とされており、現段階では争点となっていない。いずれの法令を根拠とするにせよ、名護市長の許認可権行使の可能性に対しては、地方自治法に規定された国地方係争処理委員会を通した是正要求など、政府によるなんらかの法的措置によってこれに制約をかけられる可能性も否定できない(琉球新報5月13日)。
これまでの防衛局と名護市の間の一連のやりとりから浮かび上がるのは、法的な根拠を示さないままに一方的な回答期限を設定し、その期限切れを以て一方的に協議を打ち切り、強引に移設作業を推進しようとする防衛局の、文字通り問答無用の強硬姿勢である。防衛局が新基地建設を急ぐ背景には、今年11月の沖縄県知事選前に事前調査を完了し、辺野古への新基地建設を既成事実化することで選挙の争点から外そうとする日本政府の強い意向があると見られている(琉球新報5月12日)。政府の強硬姿勢は防衛局を介した申請手続きにとどまらず、調査・建設の期間、作業区域を囲い込むように立ち入り禁止区域を設ける他(琉球新報5月14日)、現在予定される調査期間だけで計1252隻にものぼる警戒船を動員するなど、海上での作業阻止行動の封じ込めに向けて具体的な検討を進めているという(赤旗4月26日)。
日米共同声明と反「反基地」
これまで座り込みや海上での直接阻止行動によって遅らせてきた辺野古への新基地建設の手続きが、有無を言わせぬ強引さで推進されようとしている。この急展開の直接的な契機としては、昨年12月の仲井眞知事による公有水面埋め立て承認と並んで、今年4月に発表された日米共同声明において普天間基地の辺野古への移設推進の方向性が確認されたこと、及び尖閣諸島が日米安保適用の対象として公に確認されたことを挙げることができる。
仲井真知事による事実上の辺野古新基地建設承認が、今回の防衛局による一連の強引な手続き推進の法的環境を作り上げた一方で、日米共同声明は辺野古への新基地建設と尖閣諸島防衛を直接的に関連付けることで、防衛局と日本政府の強硬姿勢を正当化する政治的効果をもたらしたと言える。
4月の日米共同声明以降、辺野古に米軍基地を建設しなければ中国の「脅威」から日本を守ることができない、という主張が目立つようになってきた。朝日新聞が5月11日と13日にそれぞれ掲載した沖縄の反基地運動に対する反応を取り上げた記事は、こうした論理がどのように展開されるのかを象徴的に示すものである。11日付の記事は2012年の9月から反「基地反対」を掲げて活動する沖縄のグループを取り上げ、沖縄における中国「脅威」論の台頭を問題化したもので、13日付の記事は関西の人気トーク番組での基地反対運動に対する批判的な報道を中心として、日本本土で沖縄の米軍基地の問題を提起すること自体が難しい状況におかれていることを訴えたものだ。
沖縄内外で登場したこれら反「基地反対」の動きからは、外部に中国の「脅威」を想定し、在沖米軍基地に異議を唱える者を内部の敵(=スパイ)として摘発していくという意味で、自警団にも似た暴力が浮かび上がる。反「基地反対」の動きは今に始まったものではないが、日米共同声明において辺野古への新基地建設と尖閣諸島防衛とが関連付けられたことを契機として、その存在感を増してきたと言える。
名護市の法的権利を宙吊りにしながら、問答無用で新基地建設事業の手続きを進める防衛局と日本政府は、こうした動きを法外の根拠として確保しつつあるように思える。それは辺野古への新基地建設を、普天間基地の「運用停止」を可能にする唯一の「負担軽減策」として位置づける使い古された建前が、建前のまま居直る事態を示唆している。
漁港使用のために名護市の許可を必要と認めたことについて
新基地建設の目的としての「沖縄の負担軽減策」という決まり文句に加えて、名護市との一連のやりとりの中で防衛局が繰り返し強調してきた表現として、事業推進に際する手続き上の「合法性」があげられる。防衛局はこれまで、名護市の条例を無視し、同市との協議を事実上放棄し、名護市長の許認可権を否定してきたが、いずれも法令に則ったものであると主張してきた。こうした防衛局の態度に対して、「法治主義の否定」といった批判もなされている(琉球新報4月30日)。
しかし、防衛局は5月14日に態度を一転し、法令上に規定される名護市長の許認可権を認める旨を公言したと報じられている(琉球新報5月15日)。現在の名護市長稲嶺進氏は辺野古への新基地建設を認めないことを公約として今年1月に当選し、これまでも新基地建設に関わる事業への許可を与えないことを公言してきた。したがって、名護市長の許認可権を認めることは、防衛局にとっては新基地建設を推進する上で大きな障害となり得る。
とはいえ、新基地建設にあたって名護市長の許可が必要であると認めることは、必ずしも防衛局側が名護市の法的権利を尊重することを意味しない。先に述べたように、名護市長の許認可権自体が、なんらかの法的措置によって制限される可能性が依然として否定できないからだ。防衛局の発言の詳細は明らかでないが、これまでの経緯を踏まえる限り、「沖縄の負担軽減策」として位置づけられた辺野古新基地建設の「合法性」を強調する、従来のレトリックの反復以上の意味は期待できない。
今後の展開については、続報を待って随時更新する。
(契)
【引用紙面・URL】
・琉球新報
2014年4月23日 「回答期限の根拠要求 名護市、防衛局に文書」
2014年4月29日 「辺野古漁港申請 防衛局、回答期限『法的根拠なし』」
2014年4月30日 「防衛局回答 法治主義を否定するのか」
2014年5月9日 「名護市、防衛局へ再提出要求 辺野古申請『内容に不備』」
2014年5月10日「辺野古移設申請手続き 防衛局が名護市に補正文書提出」
2014年5月12日「辺野古前倒し検討 県民愚弄の政治手法だ」
2014年5月13日「名護市の回答見送り 政府、法的措置も検討」
2014年5月14日 「シュワブ沖にブイ設置 進入者に刑事特別法適用」
2014年5月15日 「辺野古漁港使用『名護市長の許可必要』 防衛局が見解」
・沖縄タイムス
2014年5月9日「辺野古移設めぐり『心理戦』」
2014年5月13日「防衛局『名護の許可不要』法律根拠 市は批判」
・朝日新聞
2014年5月11日「反『基地反対』、沖縄に台頭 若者ら活動『中国が脅威』」
2014年5月13日「とがった視線、沖縄へ 反基地運動に根拠乏しい非難」
・しんぶん赤旗
2014年4月26日「辺野古に警戒船1252隻 沖縄防衛局 新基地強行へ海上抗議封じ込め 笠井議員が批判」